川原歯科医院 | KAWAHARA Dental Clinic



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医療の質

2012年8月 6日 | その他

歯科医師になって以来20数年、「患者にとってより良い歯科医療とは何か。」と自問しながら臨床に取り組んできました。最初は、診療技術の習得に、その後診療システムそのものを、そして医療に質について考えるようになってきました。患者の立場からだけでなく、医療提供者の立場からも、質の高い医療を望むのは至極当たり前のことです。それではどうすれば質の高い医療を提供できるのか? そもそも医療の質とは何なのか? そして、何をもって医療の質を表すことができるのか? そんなことを考えているときに、聖路加国際病院の福井次矢先生のご講演を聴く機会に恵まれました。
質の高い医療を提供するためには、訓練された医療スタッフと最低限の建物・医療器機は必要ですが、絢爛たる施設や多数の高額な最新器機を揃えたり、アメニティを充実させたり接遇を好感度にしても、質の高い医療が保証されるとは言えないことは明らかです。医療の質は、①施設の構造(ストラクチャー)、②診療の過程(プロセス)、③診療の結果(アウトカム)という3つの側面から評価されます。最も重要なのはアウトカム(余命の延長、QOLの改善など)であることはもちろんですが、アウトカムのみでは医療の質を知ることができない場面も少なくありません。
現在のところ医療の質を知るためには、プロセスの評価が最も望ましいと考えられています。米国では、「個人や集団を対象に行われる医療が、望ましい健康状態をもたらす可能性の高さ、その時々の専門知識に合致している度合い」が医療の質と定義されています。つまり、医療の質とは、根拠に基づいた医療(EBM)に則った医療をどのくらい行っているかが問われているのです。
そして、EBMに則った医療とは、「診療上のテーマごとに、最も高いレベルのエビデンスを知った上で、患者に特有の病状・意向(個別性)や医療現場の状況に配慮しつつ行う診療」です。1990年代以降、医療先進諸国ではEBMの考え方が普及し、さまざまなテーマについて“標準医療”のガイドラインが作成され、エビデンスに基づいた具体的な診療が推奨されるようになってきました。ところが、“標準医療”がどの程度実際に行われているのかを調べると、必ずしもガイドラインに則った診療が行われているとはいいがたい場面も少なからずあり、Evidence-practice Gap(エビデンスに基づいた望ましい診療と実際に行われている診療の格差)という考え方が提唱されるに至りました。
Evidence-practice Gapを知らなければ、そもそもどれくらい“標準医療”に近い診療をしているのかさえ知ることができません。また、Evidence-practice Gapを知ることが、EBM実践の強い動機付けになります。そのために、“標準医療”が実践されている度合いを数値で表す必要があります。これがQuality Indicator(QI:質指標)です。
聖路加国際病院では、電子カルテ・システムの導入後、2004年以降の診療データを用いてQIを算出・公開しており、その効果として、1)ホーソン効果:他人に見られる観察されることによるパフォーマンスの向上、2)比較されることによる向上(エビデンスとの比較、他の医師との比較、他施設との比較)、3)組織としての介入:個人の問題とせずシステム変更で対応の3点があり、結果として多くの医師や看護師が勉強会に出席し知識と技術の研鑽に努め、全職種を対象とした臨床研究(エビデンス発信)の支援部門の整備と相まって、医療の質の向上に大きく貢献しています。
私たち歯科医療にも新しい価値が求められるような時代が来ていることを感じています。

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